銅酸化物Pr2Ba4Cu7O15の二重鎖構造による超伝導

銅酸化物においては通常、CuO2面によって超伝導が起こる。そのため、それ以外の構造を持つ銅酸化物において超伝導が見つかることは大変興味深いと同時に、銅酸化物における超伝導機構の理解に役立つ。そのような物質としては梯子形(14-24-41系)があるが、あらたに、Pr2Ba4Cu7O15-δが加わった。酸素をある程度の量還元すると最大で20K程度の超伝導が生じることが新潟大学を中心とするグループにより発見された。この物質は2次元CuO2面がPr系特有の効果により絶縁体化しており、超伝導になるのは二重鎖構造の部分であると考えられている。



我々はこの物質の第一原理バンド構造のうち、二重鎖からくる部分を再現する擬一次元tight binding模型を構築し、FLEX近似により超伝導の可能性を検討した。この物質のバンドの特徴は、バンドの非単調な形のために、擬一次元的なフェルミ面の内側と外側の二重構造になる点である。


オン・サイトの相互作用Uのみを考える模型では、内側と外側のフェルミ面のネスティングにより、スピンの揺らぎが発生し、20K程度の現実の実験結果と近いTcを与える。ただし、Tcのバンド・フィリング依存性があまり大きくないことが、還元しないと超伝導にならないことと整合しない。そこで、さらに隣接サイト間相互作用Vも考慮した。これによりδ=0(電子のバンド・フィリングでいうとquarter-filled近傍)におけるTcが消失し、実験と整合する結果を得ることができる(文献Rf-81)。





FLEX近似によるTcのバンド・フィリング依存性
(上)Uのみ、(下)U&V