非連結フェルミ面を有する系における高温超伝導の可能性

銅酸化物高温超伝導体の模型と考えられる2次元正方格子ハバード模型のhalf-filled近傍に対してFLEX近似を適用すると、ホッピング積分をtとして、0.03t程度のTcを持つd波超伝導が得られる。これは約100K程度に相当し、現実的な値である。同様の計算を3次元格子やdilute band fillingに対して行っても、これほど高い臨界温度は得られない(文献Rf-31)。 その意味で、2次元正方格子のhalf-filling近傍は特異的であるといえ、このことは銅酸化物高温超伝導の臨界温度が特異的に高いことと関係があるように思える。一方で、もともとの電子系のエネルギーt(あるいはバンド幅8t)からみると、0.03tというTcは非常に低いように思える。斥力相互作用によって引き起こされるd波超伝導は、フォノンの低いエネルギースケールが律速にならないという意味で高い臨界温度を与えうる一方で、斥力相互作用を起源とするため、一般的には超伝導ギャップ関数にノード(節)が入ってしまい、フェルミ面上に完全にギャップが開かないことが超伝導のTcを下げる要因となりうる。我々はこの困難を回避する手段として、非連結フェルミ面による高温超伝導の可能性を提唱した。すなわち、図のように非連結なフェルミ面があり、その間にある程度のネスティングがあると、そのネスティングベクトル周辺にスピンの揺らぎが発生し、その揺らぎはフェルミ面間のペアリング相互作用(フェルミ面からフェルミ面へのペア散乱を引き起こす相互作用)を生み出す。スピン揺らぎによる相互作用は斥力的であるため、フェルミ面間で超伝導ギャップの符号は反転するが、フェルミ面が非連結であるため、フェルミ面上ではfull gapが開く。

このような状況が実現する具体例として、我々は図のような格子上の電子系を考案した(文献Rf-35, Rf-45, Rf-48)。 FLEX近似による上記の計算と同様の計算を行うと、これらの系ではいずれも、最高で0.1t近いTcが得られることがわかった。


「非連結フェルミ面」を実現する格子。太い線、細い線はそれぞれ大きい、小さいホッピング積分を表す。


超伝導臨界温度の計算例。上の5格子のうち、上段左の格子に対するもの。縦軸, 横軸はTc, tx1をtyで規格化。