ハバード模型における超伝導の可能性

ハバード模型はサイト間の電子の移動(トランスファー積分)と電子間のオンサイト斥力のみを考慮する模型であり、このような単純な斥力模型において超伝導がおこるか、という問題は高温超伝導発見以前からも興味深い問題として調べられてきたが、特に数値計算の立場からは超伝導発現に否定的な結果が多く、ハバード模型で高温超伝導を説明することは難しい、という認識もあった。以下に述べる我々の研究成果はこの認識に再考を促すものといえる。

ハバード模型における超伝導の可能性を再考するきっかけとなったのは梯子型格子上のハバード模型、すなわちハバード梯子模型に関する研究である。2本鎖ハバード梯子においてはスピン・ギャップが開き、それに伴って超伝導相関が発達することが繰り込み群+ボゾン化の方法によりわかっている。一方、奇数本鎖の梯子系ではスピン・ギャップが開かないことがわかっているので、ナイーブには超伝導は起こらないと考えられる。我々は3本鎖ハバード梯子模型における超伝導の問題にボゾン化の方法により取組み、3つあるスピンの励起モードのうちの2つにギャップが開く(したがって全体としてはスピン・ギャップはない)ことに起因して、意外にも、超伝導相関が発達し得ることを示した(文献Rf-12,Rf-23)。


また、ボゾン化による上記の結果を有限系に対する数値計算で再現するには注意が必要であることを示した。それは、超伝導のエネルギー・スケールが有限系における準位の離散間隔よりも小さい可能性があるためである。実際、量子モンテカルロ法によってハバード梯子模型における超伝導相関を計算した結果、フェルミ準位近傍の準位の離散性が小さくなるようにトランスファー積分の値を選んだ場合にのみ、ボゾン化の結果と整合する超伝導相関の発達が得られることがわかった(文献Rf-13,Rf-16,Rf-23)。

我々はハバード梯子に関する上記の数値計算結果に鑑みて、従来、超伝導に否定的な数値計算結果が多かった二次元ハバード模型に立ち返った。そして梯子系の場合と同様にフェルミ準位近傍の準位の離散性に注意を払って量子モンテカルロ計算を行った結果、half-filled近傍においてdx2-y2波超伝導の相関関数が発達することを見いだした(文献Rf-19)。